<前書き>
前稿#8でセッティングの道の第一歩を踏み出したわけだが、それは長い長い道のりのほんの一歩に過ぎず、この先幾度の分かれ道・茨の道がやってくる。本当にこの方向でいいのか?道は合ってるのか??自問自答、あちらを立てればこちらが引っ込む、そういった苦悩に心折れそうになることもあるかもしれない。
ぶっちゃけ、近道はない。
それを楽しみながら取り組むことが大切。
尽きない楽しみ。本当の始まりはこからだ。
<本題>
FLEX Zの慣らしが終わり、プリセットデータは使い物にならず、今一度FLEX Zの実力を確認し、テイン公開のZC32Sのセッティングデータをインストールし走り回る。当然気に入らないので、これをベースに改良を加えるか、と思えば、それはかえって遠回りだから止めとけと言う。
じゃー、一体どーすりゃいいんだよ?って言うのが前回の#8の話し。その投稿を終えたあと、暫く考えてみたのだが、やはり一から正攻法でやっていく方が良いのでは?と思うようになった。
とは言え、最初からあれもこれもは大変なので、ひとつひとつ各制御毎に進めていき、最後に合体して整合を取る、というやり方に方針を変更しようとおもう。
(#8はとりあえずプリセットデータよりはマシな「ZC32Sを試してみよう」という短編とする)
シリーズ最長編!
Contents
条件を揃える
セッティングを出す作業の初期段階に於いて、「条件を揃える」ということを心がける必要がある。
1)テストコースを決める
セッティングを詰める時や新たな数値を試すとき等を確認するコース(道)を決める。状況に応じて複数、違う場所にあっても良い。
コースに適すると思われる理想を上げると、
・交通量が少なく、速度調整が容易にできる
・充分な直線がある
・大小適度なコーナーがある
・良路である
・通勤途中や自宅からすぐ行ける距離である
2)車両の仕様
例えば、タイヤ。
銘柄やサイズが変われば乗り味も変わる。
同じタイヤでも空気圧によってもだ。
小まめにチェックすること。
重量も車の動きに大きく関係する。
ボンネットがカーボンになっただけでもセッティングは変わる。
燃料については致し方ない面もあるが、満タンと空でも感じは変わることを意識する必要がある。
他にも天候や気温も、、、と完全にイコールコンディションとはならないが、出来るだけ条件は揃えた方が良い。
基準段数を決める(暫定値で可)
基準段数とは、EDFCのセッティングにおいて制御の基準となる段数である。セッティングをするうえで、基準段数を決めなければならない。
まず最初に、この数値をどうやって決めるか?となる。制御の開始点なのだから最弱(最も柔らかい)の64で良いのでは?と思うかもしれない。テインが公開しているZC32Sのセッティングシートでも基準段数は前後とも64となっている。これはこれでアリなのかもしれないが、いろいろやっていくうちに良いのか良くないのか判ってくるはずだ。(0~64段をフルに使うというのなら良いかもしれないが、その分セッティングは難しくなる(はず))
この基準段数の探り方は色々あると思うが、簡単な方法はマニュアルモードで少しずつ段数を変えては走ってを繰り返し、前後のバランス等”だいたい”良さそうなポイントを見つける。ただし、基準段数はセッティングにおいて割と変更したりもするのでここで神経質に多くの時間を費やす必要は全くない。
速度制御(その1;基準段数との関係)
EDFCの制御で最も重要なのは速度制御である。これがオートモードでの制御のベースとなる部分であり、加減速G制御や旋回G制御にて味付けをするイメージだ。(当然もっと高度な考え方もあるが、セッティングを作る上で、これが最もシンプルでとっつきやすい解釈と考える)
速度制御は基準段数をスタート点(速度”0km/h”)として、速度が上がるにつれダンパーの段数をどう変化させていくか、である。
当然、基準段数を変化させると、速度制御も同数変化する。
基準段数を上げる(柔らかくする)と、速度制御も全体的に上げた分上がる(図中①)逆に下げれば(固くすれば)速度制御も全体的に下がる(図中②)。
速度制御を弄らなくても、基準段数によって固い・柔らかいの変化をつけることが可能で、最初に基準段数を決める際は暫定で良いとしたのは、こういう微調整を後々行う場合があるからだ。
速度制御(その2;速度制御カーブ)
速度制御において重要なのが各速度での乗り味である。それを見える化したのが速度制御グラフで、横軸が車速、縦軸がダンパーの減衰力(段数)で表すことができる。そこで見えてくるのが速度制御カーブである。
図中Aは速度に比例して段数が下がる(固くなる)線形とした制御。対して図中B,C,Dは速度に比例しない非線形な制御で、図中Bは低速域は基準段数を維持し、中速域から高速域に向かって段数を下げていく(固くしていく)パターン、図中Cは低速域で強めに下げて(固くして)、中~高速域ではあまり制御させないパターン、図中Dは、低速域はプラスに振って乗り心地を良くし、中速域から強めに下げる(固くする)というものに見えるが、これは後述するがG制御が加わった場合で、車速が低い領域で制御代を残しておきたい場合に用いる手法になる(速度制御だけではこのパターンにはならないかもしれない)
このように、制御のさせ方によって特性を変えられる。
速度制御(その3;前後差)
車両の前後の重量差を考えたとき、スイフトスポーツ(ZC33S)はフロントが重くリヤが軽い。これは単に重さだけの話ではなく、動的な動き(慣性)も変わってくる。従って一般的にフロントはリヤよりも、ばねのばね定数もダンパーの減衰力も固めとなっている。車高調整式サスペンションキットでもこの辺は考慮された仕様になっているが、EDFCのセッティングにおいても下図の様に予め前後差を与えておいた方が良い傾向である。
以上のことを踏まえて、、
セッティングシートの速度制御の部分を思い出して欲しい。
速度の切替点(制御点)はS0からS9までの10点設定できる。極低速は無視できるとして、S0を20km/hとしたら、S1を20km/h、S2を30km/hという風に、各制御点の速度を決める。(これも後から変更できるのでそんなに悩まなくても大丈夫)
後は実際に車を走らせ、何点かの制御点で設定した速度の時に良いと感じる段数を、マニュアルモードで探っていく。走ってはメモを取るの繰り返しになる。
ただし、あくまでも速度制御単体での値であり、後々G制御と合成した場合は再調整も必要になる場合があるので、まだ「ざっくり」でよい。
大まかに各速度での段数が決まったら、それを元にセッティングシートに落とし込む作業に入る。
コントローラーに入力するのは、
段数ではなく、基準段数からいくつ引くか(足すか)
セッティングシートに記入する値は、その制御点で基準段数から何段変化させるか、の数値になる。
例えば、基準段数が64、制御点S3の段数がフロント36、リヤが42だとする場合、セッティングシート上のS3には、
フロント:-28
計算式:36段(狙いの段数)-64段(基準段数)=-28
リヤ:-22
計算式:42段(狙いの段数)-64段(基準段数)=-22
となる。
セッティングシートに記入したら、コントローラーの速度制御(S1又はS2)に入力し、実際にオートモードで実走確認を行ってみる。(このとき速度制御のみの確認なので、制御モードはSLのみとする)
加減速G制御
加減速G制御は、加減速時に発生するピッチング(ノーズアップ、ノーズダイブ)を抑制する。
加速時はリヤの段数を下げ(固く)、減速時(ブレーキング時)は逆にフロントの段数を下げる(固くする)。制御の強弱は加速時のフロントタイヤのトラクションの掛かり具合や、ブレーキング時のフロントの沈み具合を何度も走って探るしかない。
各変化点(制御点)での段数ガ決まったらセッティングシートの加減速G制御の部分に落とし込む。記入の方法は速度制御と同じで、変化量(足し引き)である。
旋回G制御
EDFCの3つの制御で最も難しいのが旋回G制御だ。
テストコース(又はいつも走るホームコース)が必要なのも旋回G制御である。
コーナリングは、コーナーのRの大小、侵入速度、侵入時のブレーキング具合、コーナーを抜けた先(S字で次は逆のコーナーなのか、ストレートなのか)の状況等、関連するパラメーターは多岐に渡る。セッティングによって、ロールの加減を調整したり オーバーステア気味にしたりと、様々な変化を与えることが出来る。故にとても難しい。また旋回G制御では4輪全ての数値を同時に考えなくてはならない。
加減速Gと同様、これについても走り込んで探っていくしかない。
又、同様にセッティングシートへの記入のくだりも同じである。
3つの制御の整合を取る
ある程度、加減速G又は旋回G制御が完成したら、速度制御と合わせ3つの制御で走ってみる。GL+SLモードだ。
因みに、3つの制御は全て足されるので、それぞれ大きな値を入れてしまうと基準段数や速度制御によっては、あっという間に”0”になってしまう。
図に示すと以下の様になる。
車速50km/hでコーナーにブレーキングしながら侵入した例で説明すると、
制御のベースとなる速度制御(図中①)に、加減速G制御(図中②)と旋回G制御(図中③(アウト側、イン側で異なる))を足した段数がその時の実際の段数になる。
実際の車は動いているので、減速により車速は落ち、①の値も変化、コーナー侵入で旋回Gの値も増加するとともに減速Gは減少、という具合に刻々と変化しながら一つのコーナリングが終わる。こうなってくるとコントローラーの段数表示もめまぐるしく変わり、運転しながら数値を読み取るのは不可能。又は瞬間の数値はなんの意味もなさない。
ここから先は、動的な動きや姿勢の変化を身体で感じる「体感」が重要になってくるが、この体感ってやつもあまりあてにならない面もある(その日の体調や疲れ具合などにより感じ方も変わるため)
ここから先は常にGL+SLモードで!
ここからの、3つの制御をバランスさせるチューニングは常に3つの制御を行った状態(GL+SLモード)で行い、それぞれ別々ではやらない。
難しいと思うが、あまり難しく考えず、変化を楽しんで欲しい。
又、徐々にセッティングに必要な体感も備わってくる。ついでにイライラするコントローラーの操作も自然とサクサク出来るようになっているはずだ。
健闘を祈ります。
次回はいよいよ最終回!
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