新シリーズ、ちょっとした素朴な疑問に我々MetabonZが全力回答するコーナー!!
第3回目は、もうすぐ梅雨!梅雨が明ければ夏!夏と言えば・・・あぢぃぃぃ~となる季節がやってきますが、そんな季節の救世主、20世紀最大の発明の一つともいわれているエアコンの話を。もちろん、ここでは車の「カーエアコン」についてになります。そうそう、みなさん夏本番の前に冷房ちゃんと効くかどうか、点検しましょうね。
クーラーの原理?
石:
「突然ですが、宮さんに問題。エアコンの冷房って、なんで涼しい風がでてくるのでしょーか?」
宮:
「石さん、舐めてもらっちゃ困るよ。ワシこう見えても元大手空調機器メーカー勤務やぞ!」
石;
「そーやった。。。じゃー、エアコンの原理は知っとるってことね?」
宮:
「注射の前に看護師さんにアルコール含ませた脱脂綿で拭きふきされると、そこがスース―するでしょ?
それと同じで、液体が蒸発して気体になるために周囲の熱を奪うという蒸発潜熱を利用して、・・・」
石:
「あぁぁぁ、ストップ!ストップ!!!、そう、その通りなんだけど、それだと涼しい風を出し続けたい場合、永遠にアルコールを消費することになっちゃうよね。そこで、エアコンではアルコールの代わりに・・・」
宮:
「はいっ!はいっ!!!この場合アルコールは冷媒ね。でも空調機器の場合は冷媒として冷媒ガスを用いて、室外機でガスを圧縮して、凝縮器で液化し、室内の膨張弁から蒸発器へ急減圧して気化させ、そこに室内の風を当てて冷風にする。」
石:
「そうそう、簡単に言うとそういうこと。ちなみに原理は家庭用エアコンと車用のカーエアコンは同じ。クーラー(冷房)としてはね」
クーラー?エアコン??
宮:
「クーラーとしてはね。エアコンとなると、家庭用エアコンとカーエアコンは何か違うあるか?」
石:
「はい、クーラーとしての原理は同じなんだけど、エアコンとしてみると、構造と仕組みは全然違うのよ。その話は後述するとして、そもそもエアコンっていうけど、エアコンってクーラー(冷房)のイメージが強いけど、エアコンとはエア・コンディショナー(Air Conditioner)の略で、室内の空気の温度や湿度を調整する機器なんだ。クーラーはただ冷やすだけね。エアコンは温かい風から冷たい風までを調節する機能を持ってるんだ」
宮:
「そんくらいみんな知ってるでしょ~、さすがに。でも家庭用エアコンとカーエアコンが違うっていうのは、なんとなーくわかってたけど、じゃー具体的にどうなってるのかはちとわからんなー。」
石:
「まぁざっくり言うと、暖房(温風)の仕組みが違うんだ。家庭エアコンの場合は、簡単にいっちゃうと、室外機と室内機の機能をひっくり返しちゃえば冷房にも暖房にもなるよね。でもカーエアコンの場合はそれは、暖房(ヒーター)はエンジンの廃熱、要は冷却水を使って温風を作り出してる。他にもいろいろあるんだけど説明するとめっちゃ大変なので今回は端折るよ!」
宮:
「ズコッ!」
石:
「まぁまぁ、とりあえずカーエアコンに絞って解説するよ!!、あ、申し遅れました、ワタクシ以前某カーエアコンメーカー開発で2年ほど勤務しておりました(笑)」
宮:
「で、今回はカーエアコンがテーマってわけね」
石:
「そう(笑)」
カーエアコンって凄いかも?
という訳で、カーエアコンについて掘り下げていきましょう。
因みに、上で家庭用エアコンとカーエアコンは仕組み(構造)が違うという話がありましたが、構造だけでなく能力についてもかなり違うんです。そのくだりから↓↓↓
石:
「ところでさー、カーエアコンって凄いんだぜ!」
宮:
「なにがよ??」
石:
「ズバリ能力!性能ね。」
宮:
「と言いますと?」
石:
「例えば冷房能力。家庭用エアコンって一般的に10畳用でだいたい4kWなんだけど、車の場合は、だいたい5kW。因みに車室内の広さを畳数で換算すると約2.5畳。家庭用エアコンが10畳で2.5kWってことは単純計算で車用は5倍の能力、つまり冷やす力が強力なんだよ!」
※あくまで能力の比較です。
宮:
「ファッ??」
石:
「まぁ、車の場合はガラス面積も広いし、住宅の壁に相当するボディは金属で外気の影響を受けやすい。断熱も充分というほどなされていないから、炎天下の車内はすぐに60℃70℃になっちゃう。これを数分でクールダウンさせるにはそのくらいの大容量の能力が必要なんだ。」
宮:
「でもさぁ、家庭用エアコンの5倍の能力っていうけど、カーエアコンのユニットって、家庭用エアコンの室外機、室内機に比べて小さいよね?」
石:
「そう!小さいのに能力は5倍よ。しかも、車両に搭載するってことは、振動なんかにも耐えなくてはならないから。搭載される環境も数倍酷だよ」
宮:
「興奮してきたばい!」
石:
「車の技術って凄いんよ!」
カーエアコンの概要
石:
「ところでさ、カーエアコンってどんな構成か知ってる?」
宮:
「エンジンに付いてるのがコンプレッサー、ラジエータの前に有るのがコンデンサー、、、、あとはインパネの中にエバポレータ、あとブロアファンがあるばい」
石:
「んだ。因みにインパネの中にあるユニットをHVAC(Heating,Ventilation,and Air-CONDITIONING=通称エッチバック)って言うだよ。」
HVACユニットは、上の画像でいうと左からブロアユニット(グローブボックスの奥に見えるのがここ)⇒クーリングユニット⇒ヒーターユニット(インパネの中央あたり)で構成されてる。
石:
「HVACは、風を作り出すブロアと、低温冷媒により冷風を作るエバポレータと、エンジンからの温水により温風を作るヒーターコアからなり、ヒーターユニットにてエバポレータにて冷やされた風をヒーターコアにて再加熱する量を調整して温度調整をしつつ、各吹き出し口に配風するんだ。」
宮:
「けっこうでかいんだね。インパネの2/3はこのHVACユニットで占められてるんだね」
石:
「そうなんだ。で、このHVACは、
1)吹き出し空気の温度調整(エアミックス)
2)風量調整
3)配風制御(吹き出し位置の切替)
4)内外気切り替え
5)湿度制御(A/Cオン時)
6)除塵
の機能があって、乗員に快適な空調を提供しているんだ」
宮:
「うーん、なんだか凄いね、、、」
石:
「簡単に図に示すとこんな感じ」
宮:
「エバポレータでキンキンに冷やした空気を、下流にあるヒータにどのくらい通すか(再加熱するか)によって温度調整してるんだね!」
石:
「そう。で、上の図にはないけど、各吹き出し口、Face、Foot、Def、Face&Foot、Def&Footへの配風切り替えも行っているんだ」
宮:
「ほぇー(棒)」
石:
「ちゃんと聞いてる??因みに、自分がヒーターユニットを作る上で苦労したのは、エアミックス性能とその配風で、例えば、温度調整レバーが18クリックあったとしたら、2℃づつ均等に温度が変化するとか、Face&Footの時、頭寒足熱となるよう、Faceには冷風をFootには温風になるようにするのが凄い苦労したよ」
宮:
「そういやさ、左右独立温度調整・配風ってどうやってんの??」
石:
「いい質問です!クーリングユニット以降、ヒーターユニットが2系統になってるあるよ。なのでコストも当然跳ね上がるので残念ながらスイフトクラスの採用は無いよね」
エアコン効き不良?(冷媒ガス)
宮:
「そーいやさ、昔古い車に乗ってるときさ、エアコンの冷えが悪いなぁと思ってたら、ガススタの店員がさ、ガス減ってるみたいなんで足しときましょうか?なんて良く言われたんだけど、あれってどうなの?実際」
石:
「冷え不良ね。原因は色々あるけど、まぁコンプレッサーも回って、ゲージ圧も見てガスが減ってると判断したのは妥当だとおもうばい。でもできればガスを足すというのはあまりおススメできんばい。」
宮:
「なんで??」
石:
「冷凍回路に封入する冷媒ガスの量は、各車両毎に計算された規定量がきまってるんよ。つまり、冷媒ガスの量は多すぎても少なすぎても冷え不良になるってこと。」
【↑↑↑冷媒ガスのモリエル線図】
【モリエル線図を簡略化した上に冷凍サイクルを重ねた図】
冷凍サイクル中の冷媒ガス量は図中赤の線の様に効率が良い圧力と温度になるよう、計算され封入されている。ガス量が多かったり少なかったりすると、理想的な線図から外れ、効率が落ちてしまう=冷え不良となる。
宮:
「ふーん、なるほど。でもさー、冷凍回路内の冷媒ガスってさ、なんで密閉回路内にあるはずなのに減るんだい??」
石:
「はいはい、これはね、カーエアコンである故の宿命みたいなもんで、コンプレッサーはエンジンに取り付けられているよね?」
宮:
「はいはい」
石:
「エンジンはどうしても振動する。なのでコンプレッサーにつなぐ冷媒配管にどうしても振動を吸収するゴムホースを使うことになるんよ。ゴムは高分子材料で分子間のすきまが大きいので、気体分子を完全にシールすることができないんだ。なので長年使っているとゴムホースから冷媒ガスが外に透過していっちゃう(逆に水分や空気が侵入)んだ。」
宮:
「分子レベルの話!!(粗品風ツッコミ)」
石:
「なので出て行っちゃう分を見越して、余分な冷媒を蓄えておくためと、入ってきた水分を除去したり空気を分離する為に、レシーバー(受液器)を備えているんだ」
宮:
「じゃー、そー簡単にガスが減ったりすることは理論上無いってこと?!」
石:
「そう。なので、数年で冷え不良になるほどガスが減るってことは、例えば冷凍回路上にピンホールなどの小さい穴が開いてしまったとか、配管と配管の繋ぎ部分が緩んだとかを疑った方が良い」
宮:
「でもそれって見つけるの大変じゃ??」
石:
「そう!なので、一度真空引きして規定量のガスと一緒に蛍光剤を入れてもらい、漏れた箇所を見つけてその部品を交換するっていう方法もあるよ」
宮:
「なるほどね。他に元カーエアコンメーカー設計者としてのアドバイスってある??」
石:
「そうね、じゃー、それは次の項にまとめるよ!」
これだけは知っておこう!
①クーラー冷え不良の場合、ガス継ぎ足しではなく、ディーラーやエアコン修理業者等で真空引きからの規定量のガスとコンプレッサーオイルを入れてもらう※ガスはg(グラム)単位でのオーダーです!!
②A/Cは常にオンにしておく(コンプレッサーにもエバポレーターにもその方が良い)
③エアコンフィルターは年1回交換する
④基本は夏は内気循環、冬は外気導入。但し、自分は常に内気循環で使ってます。(時々換気しましょう)
⑤冷媒回路にはメーカー指定の冷媒ガス及びコンプレッサーオイル以外の物は入れない
他になんかあったかな、、、思い出したら追記しておきます。
という訳で、カーエアコンの概要(ほんの触り程度)ですが、是非今一度、車検証ホルダーの中にある取扱説明書のエアコンの項をもう一度読み返して頂き、正しく使って快適なドライブを楽しみましょう!(Metabon石)
自動車物書きユニット MetabonZ。
理系と文系の著者による「わかりやすさ」「読みやすさ」を目指したブログです。
豊富なクルマ遍歴と謎の知識量。日々頑張ってます。
Metabon宮 Metabon石